いつか時間ができたら、
クルーズ客船に乗って世界各地や国内をただ自由気ままに旅したい
天候や時間帯によって表情を変える船内ではゆったりとした時間を堪能して、
停泊した見知らぬ土地では現地を思い切り楽しむ、
そんな旅を。
これは陸から離れ、
どこまでも続く海と空の間で、
移動時間すらも贅沢に過ごしたい全ての人に向けた、
日本一の豪華クルーズ客船
「飛鳥Ⅱ」の乗船記。

澄みわたる青空と爽やかな海風に抱かれて。
船上で迎えた休日で最も心地いい朝

【午後16:00】乗船

「いつかは豪華客船に乗りたい」と若い頃から思っていた。当時はそれだけのお金と時間がなかったけれど、今は時間も人並み以上の蓄えもある。それならそろそろ自分へのご褒美として夢を実現しようと、「飛鳥II」への乗船を決めた。事前に送られてきたガイドブックをくまなく見て、船内でどう過ごそうか想像を膨らませていたおかげで、久しぶりに年甲斐もなくわくわくして、昨夜はなかなか寝付けなかった。

飛鳥Ⅱは、日本をはじめとしたアジアやアメリカ、ヨーロッパ、北欧など世界中を周遊する日本の客船だ。ガイドブックによると、全長は241mもあって12階建てになっている。乗客だけで872名も乗れるようだけれど、感覚としてそれが一体どれくらいの規模なのか、まだ上手く想像できない。

当日の夕方、いよいよ乗船するべく港へ向かうと、目の前にはこれまで見たこともないような巨大な船が停泊していた。思っていた以上の大きさと、これから始まる楽しい旅の予感に、だんだんと気分が高揚してくる。乗り込もうと乗船口まで行くと、飛鳥II専属のカメラマンが記念写真を撮ってくれた。

乗船後、笑顔で出迎えてくれたスタッフに従って進み、5Fに上がると「アスカプラザ」という広々とした円形のホールに出た。中央が吹き抜けになっているので、6Fの一部が見える形だ。ラウンジにはソファがあり、端にはレセプションがある。手続きは思っていたよりも簡単で、スムーズだった。最後に渡されたカード1枚で客室の解錠ができるだけでなく、船内で買い物をしたり有料サービスを受けたりすることもできるそうだ。これだけで船内を自由に歩き回れるのは便利だ。

【午後16:30】客室へ

ひとまず客室へ向かおうと、船の端から端まで真っ直ぐに続く長い廊下を歩いていると、船内クルーの方々がすれ違う度にフレンドリーにあいさつをしてくれて、温かさを感じた。飛鳥IIには8タイプの部屋があり、どの部屋もツインベッドで窓から海が見えるのが特徴だ。私の部屋は、Eタイプ。入ってみると部屋は長方形で、意外と奥行きがある。何より、この部屋にはバルコニーがあるのが最大の特徴なので、外に出るのが楽しみだった。

荷物を置いてさっそく外に出ると、床が板張りのバルコニーには2脚のイスがあり、柵を隔ててすぐ目の前には海が広がっていた。

幸いにも天気がいいので、海の向こうに山が見える。この景色を一人占めできるなんて、なんて贅沢なんだろう。3タイプあるスイートルームのほうは、予約をすればバルコニーで食事ができるので、いつかスイートにも泊まってみたい。

せっかくなので、初日はこのまま部屋でゆっくりと過ごすことにした。バルコニーのイスに座って持ってきた本を読んでいると、時折目の前をかもめや小型船、ヨットが横切っていく。1時間ほど読書をして、海の香りに包まれながら眠りに落ちた。

【午後21:15】ピアノバーへ

バルコニーで2時間ほど眠ってから夕食をとった後、ガイドブックを見て5Fのアスカプラザに隣接している「ピアノバー」へ行くことに。中央にはバーカウンターがあり、手前にはグランドピアノが置かれていて、反対側には落ち着いた茶色の革張りのソファーが並んでいる。カウンターに座って、メニューを見た。ウィスキーやハウスワイン、ビール、カクテルの他に、おつまみとしてオリーブとスモークサーモン、チーズの盛り合わせなどもあった。

カクテルが飲みたい気分だったので、「爽やかで甘みのあるものを」とオーダー。ほどなくして運ばれてきたカクテルは目の覚めるような鮮やかなブルーで、グラスの縁にはオレンジの皮をカットしてつくられたイルカの飾りが添えられている。聞くと、カクテルはウォッカとピーチリキュール、ブルーキュラソー、スプライトでできていて、名前は「BLUE CORALS(ブルーコーラル)」と言うそうだ。

オーダー通りの爽やかな味を楽しんでいると、ピアニストによる演奏が始まった。ピアノはてっきり飾りだと思っていたので、演奏に一層いい気分になった。

【午後 22:00】出港

定刻通り、22:00にこの船は私が乗船した港を離れるようだ。出港の10分ほど前から、7Fの「プロムナードデッキ」でセイルアウェイ・パーティーという出港イベントが行われるというので、見に行くことにした。到着すると、すでにデッキにはたくさんの人が集まっていて、港では現地の市民が船を見送るためにその土地ならではの踊りを踊っていた。港によって出港イベントの内容は違うらしく、それを見るのも醍醐味のひとつだと感じた。

音楽が鳴り響く賑やかな雰囲気の中、22:00になると船は港からゆっくりと少しずつ離れていき、10分経つともうだいぶ距離ができていた。ついに陸とはお別れだ。真っ暗な海の上に浮かぶ岸の明かりを眺めていると、感傷的な気持ちになる。しばらく出港の様子を眺めた後、客室へ戻ることにした。海の上で眠りにつくなんて、なんだかロマンティックだ。

【午前 4:30】朝の客室

明け方4:30に目覚めて身支度を整えた後、期待を込めてカーテンを開けると、目の前には一面の海が広がっていた。バルコニーのドアを開けて外に出ると、一気に爽やかな海風が流れ込んでくる。どこまでも水平線が続いていて、もう陸は見えない。自分が今、海の真ん中にいることを実感した。太陽が水平線の向こうから徐々に昇ろうとするところで、こんな景色は今まで見たことがない。あまりにも爽やかな朝の時間をしばらく堪能した後、もう一眠りしてから朝食をとりに行くことにした。

【午前 8:00】リドカフェで朝食

5Fの「フォーシーズン・ダイニングルーム」では和朝食が出るそうだが、外で海を見ながらビュッフェが楽しめる11Fの「リドカフェ」へ向かった。朝・昼とビュッフェ形式で食事ができるレストランだ。ビュッフェカウンターには、サラダが3種類とブイヨンの野菜スープ、オムレツやスクランブルエッグ、ゆでたまごといった卵料理、ウィンナーにベーコン、チーズ、フルーツなどの洋食が主に並んでいた。鮭やごはん、味噌汁などの和食もある。私としては、クロワッサンやデニッシュ、フランスパンのスライスなど、焼きたてのパンが数種類用意されているのがうれしかった。

グリルがある「リドグリル」というカウンターでは、つくりたてのワッフルやフレンチトースト、パンケーキも注文できる。目移りするほどの豊富なメニューに、見ているだけでわくわくする。味見したいメニューを取れるだけ取って、デッキへ向かった。

デッキには、木製のイスとテーブルが並んでいる。せっかくなので、海側に近い席を選んだ。デッキがあるのは船尾側で、海には船の航跡が白く泡立ちながら後方に向かって伸びている。海を眺めながらのビュッフェなんて、まるで映画のワンシーンのようだと思った。

まず食べたサラダは新鮮で食感が良く、スープも野菜と肉の旨味が出ていて美味しい。オムレツは、ほどよいとろみと柔らかさ。そしてお皿にはケチャップで2匹のイルカが描かれていて、おもてなしの心と遊び心が感じられてうれしい。パンとフレンチトーストもふわふわで、食感も味もいい。新しくパンが焼きあがると、スタッフがバスケットを持ってテーブルを回ってくれるのにもホスピタリティを感じる。ひと通り食事を平らげた後、フルーツとヨーグルトを食べて、ゆっくりとコーヒーを飲みながら美しい景色を眺めた。

【午前 9:00】デッキで散歩

期待していた以上のビュッフェの内容に気持ちが高まり、つい食べ過ぎてしまったので少し歩くことにした。ガイドブックによると、7Fにあるプロムナードデッキがウォーキングやジョギングをするのに適しているらしい。階下に降りてデッキへ出ると、また一気に海風を浴びた。船の表示には「1周440m」とある。歩くとだいたい5分くらいだろう。矢印に従って歩いていくと、途中、ジョギングをしている人が何人か横を通り越していった。デッキにいるのは10人くらいだ。宿泊期間が長いほど、運動がしたくなるのに違いない。

デッキを3周ほどした後にベンチに座った。船の上で散歩をして、ぼーっと美しい水平線を眺められるなんて、これ以上の休日の過ごし方なんてないのではないか、と思えてくる。朝、流れていた船長の船内放送によると、今は水深500mの海域を時速33kmで進んでいるとのこと。このままずっと船で世界中を旅していたい、そう思える朝だった。

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